2009/09/13

裏アジア紀行


面白い人の周りには常に面白い人が集まってくるし、怖い人の周りには必然的に怖い人があつまるというのは、マーフィーの法則なのだろう。変わった人の周りには、本人が望まなくても変わった人が集まってくるというものなのだろう。本書はまさしくそんな本だ。決して著者は、自ら進んで危険な世界を見てみたいと思っているわけではないようで、心のどこかでは冒険心はあるとしても、こんなにまで変な人たちが回りに集まってくると、実際の本人になってみた場合に、どれだけのひとが精神的にまともでやっていけるのだろうかと真剣に思った。

普通の人では死ぬまでに体験できないような奇人変人たちと出会えるということはある意味羨ましいと思う。普通ではそんな人たちに会おうにも会えないからだ。しかし、まぁ、よくもまぁこんだけ世の中に変態的な奇人が普通に同じ世界で生きているなと感心してしまう。

この本は、アジアのいかにも怪しげな人たちがいるだろうという場所の紹介を、そこに住んでいる怪しい人たちと、その人たちの考えを通してその地域を見せているので、とても興味が湧く。決して面白おかしく書いているのではなく、事実をそのまま記録しているというものだから、脚色無しだ。変な人たちが集まっている不思議な環境でも、書き手がへたくそだった場合には、その面白さや奇妙さが全く読み手に伝わらないとおもうのだが、この筆者は凄い。読み進むたびに「もっとないの?」というような気分にさせてくれる。そして、アジアのディープなところに是非行ってみたいと思うような冒険心を駆り立てるような人も読み手はいるだろう。しかし、反面、アジアっていつまでたってもアジアなんだなーと、つまり、アジアはいつまでたっても洗練されず、泥臭く、怪しげなひとたちの溜まり場のようなところだという印象を与えてしまうような本ではあるかなと思う。実際に、どんなに中国人が背伸びしてファッショナブルになっても、深層心理は代表的なアジアそのものなので、身近にはいくらでもアジアらしいアジアは転がっているといってもいいだろう。

まずは、最初からプノンペンの話から出てくるが、カンボジアの内戦のイメージをそのまま本の中で紹介しているようなものだ。ただし、戦争のことは出てこない。内戦が終わって、そのまま軍人としての職業を失ってしまったようなゴロツキが、腐るほど周りに存在していて、そいつらが周りに住んでいるので、常に危険といい加減さがつきまとっているところが、いかにもアジアらしい。借りた部屋は、インチキくさい中国人がオーナーになっているのだが、中国人が最初からここにいたわけではなく、カンボジアの内戦が終わった途端に、一斉に金になるものを見つけにやって来たらしく、内戦当時は生き抜くだけで精一杯の人たちが多かったため、街を捨てて出て行ったところ、内戦が終わってもぬけの殻になったようなビルを片っ端からタダ同然で自分のものにしてしまったというのが真相。こういうバイタリティがあるから、中国人が世界のなかでゴキブリのように生き残っていけるのだと思う。そして、電気と水道が日本とは異なりそんなに潤沢ではない環境であるから、いろいろなハプニングが起こる。ソ連産のお古のクーラーをどこから仕入れたのかわからない電器屋から買ってきて家に取り付けると、周辺全家庭の電気が落ちるという事件が起こるわ、使いすぎて、クーラーのファンが爆発するという事件も起こる。また、いかに騙して他人から金を巻き上げるかということしか考えていないような奴等がたくさんいて、その中にまんまとカモとして引っかかった哀れな日本人を馬鹿にするというのはよくありがちな話だ。だいたい海外で中途半端に日本語を話そうとする奴等は、日本人から金を踏んだくろうと考えている奴等ばかりの典型的な事件がたくさん見に起こるところが面白い。真面目に日本語を勉強しているひとなら、そんな手で日本人に近づこうとはしないものだ。

カンボジアに店を開いている日本人を見つけ、同胞のよしみで毎日出向いていたところ、あるときから眼つきが変わったという。奇人変人たちしか住んでいないところに店を出すということ自体が変態的な行為だとは思うのだが、そこでは色々な人が店に集りや妨害などでやってくるようだ。そんな環境で生活していると、プノンペン病というものに遅かれ早かれ外国人は経験する心の病になる。その例として

 ・高価な携帯電話や乗り物などで見栄を張りたがる
 ・必要以上にデカイ声でシモネタを連発する
 ・運転中は常にホーンを鳴らしっぱなし
 ・洋書店では必ず「Soldier of fortune」を立ち読みする
 ・下品で派手な装飾品を好んで身につける
 ・会話中に「ぶっ殺す」という単語が増える。
 ・誰がだが陰口を叩いたというだけの理由で、殺し屋の値段を調べる

というのがあるようだ。これって、確かに危ない心の病気だとは思うが、ディープなアジアの場所であれば、どこでも一般的なことだと思う。プノンペンはまさしくディープアジアのなかのディープエリアなのだ。

中国の山のなかでは、ヤクザの親分同士が泊まっていたホテルのレストラン(といっても、学食みたいな雰囲気のところらしい)で、どちらが強いかのみ比べの最中に出会ったりする。双方とも、限界寸前といった感じで顔色がわるいのだが、互いに後には引かず、そんなボスの周りの手下が必死に励まし、隙さえあれば敵ボスのグラスに酒を都合と目を光らせ、敵側のチンピラは怒声でそれを阻止しながら、酒瓶片手に相手側の隙を窺っている。中国のおきてでは、うっかり酒を注がれたら、血を吐こうとなんだろうと、その場で必ず一気に飲み干すものなのだ。勝負している酒が、白酒だから、この勝負はっきりいってバカである。中国人の打ち合わせでは、たいていが酒の席で決まるとは始皇帝の時代からの基本だとは言われているが、山奥にもそれが浸透している模様である。見ている人間からすると笑えるが、参加している人間から見ると、こんなに辛いものはない。そして、最後は周りの手下が「手助けをした」ことにより、場は罵声とともに乱闘に発展。これぞ中国である。

他にもたくさんのストーリーがあるのだが、そんなのを全部書き出したら、本を丸まる一冊写してしまうことになるので、やめておく。しかし、そんな奇妙キテレツな話ばかりが「実話」として載せてあるので、アジアって、いつまでたってもアジアだなとおもうのである。黄色いサルはいつまでたってもサルなのだと認識できる。

著者クーロン黒沢のほかの本も読んでみたいと思うようになった。

裏アジア紀行
著者:クーロン黒沢
出版社:幻冬舎アウトロー文庫
発売日: 2005/12
文庫: 245ページ

マレー半島すちゃらか紀行


女性が書いた紀行文はつくづくつまらない作品になるということがよく認識できた一冊だと正直感じた。この本は3人の著者が同一旅行で感じた内容を記載しているという意味では、同じことをしているときに、互いにどのように感じていたのかというのがわかってしまうという意味では面白みがある。しかしながら、書いている本人にとっては、どたばたコメディのような事象があった場合でも、それを著者本人の視点で書いているため、その視点が他者が読んだ場合でも面白いものになるのかどうかという意味では、この本は全然面白いものではないと感じられる。というのも、せっかくマレー半島をいろいろなルートで回って堪能しているのにも関わらず、マレー半島ではなくてもいいだろうというような内容に全体的に感じるからだ。確かにこの場所で、こんな珍事が起こったというのは文章として残っている。しかし、その珍事の事象を表現するのに深さがないのだ。珍事はたいてい予想もしていないような事態が起こるから珍事なのであって、あわよくば期待しちゃいたいというような、事前に起こるだろうと想像できる事象であれば、それは珍事ではないと思う。奥深さがなんとなくないなぁと感じるのである。想像できるだろうという出来事を、さも「偶然こんなことが起こった」なんていうようにシナリオ化されてしまっては、オチがわかっているギャクを見せられているようなもの。わかっているオチを面白おかしく脚色するなら良い。おもしろくないのだ。

さらに言うと、同一著者が書いているわけじゃないので、ある人がノリ良く書いた文章を読んだ読者が、そのままのノリを持続して続きを読もうとすると、違う文体にいきなり変わるために、読む側から見ると一瞬困惑してしまう現象が起こる。そして、また慣れた頃に、さらに違う筆者が出てくるのである。もう頭の中が波に乗れないサーファーのような状態になって本を読むので、一気に読み進めるということが出来なくなる。たぶん、個々で一気に書いたほうがおもしろい本になるのだと思うが、こんなつまんない3人が(旅行記の中では4人で旅行している)文体を異なる勢いで書いているのは、良くない。どうせなら、3人の雑談形式で「あんなことがあったよねー」と井戸端会議にしたほうがまだよかったのではないかと思う。そのほうが、会話をしている人たち同士の腹の探り合いと反省会となる座談会に臨場感が出てきて、面白いのではないかと思う。

全体的な批評は書こうとしたらいくらでも書けるのでこのくらいにして、内容といこう。

マレーシアに関する本が世の中に出回っていないというのは、以前のblogでも書いた。そんな中でマレーシアを旅行に行った感想を書いたり、現場の生の情報が見られる本としては、少し友好かとおもう。ただし、マレーシアだって、日々発展している国であるために、ある程度参考になる本では合っても、現在のマレーシアを精密に反映しているかというと、それは嘘になる。ただ、情報が少ない地方の様子を知るためには、良い体験をしてそれを紹介している本であるとは思う。ただ、読みにくいだけ。

出発はクアラルンプールから始まり、マレー鉄道に乗って山のほうに行き、そのあと東海岸の島のほうにいくプランになっている。クアラルンプール以外は、ほとんどのガイドには記載されていないような内容なので、これはこれでちょっとした情報を記載しているのではないかとおもう。よくありがちな、どこどこにいって、何を買って、何を食べたーというようなつまらない旅行記ではないところが、まだ良い。食べる・買うという女性っぽいところはあまり出てこないのはよいとおもうが、この本の最初のほうで、いきなり「うっ・・・」と拒否感が出てくる部分がある。それは占いだ。登場人物の紹介の仕方が、「〇〇座、B型」というような、いかにも女性が好きそうな内容を書いているところが嫌になる。こういうのを止めればいいのにと思う。

マレー半島すちゃらか紀行
出版社:新潮文庫
著者:若竹 七海, 高野 宣李, 加門 七海
発売日: 1998/09
文庫: 322ページ

亜細亜ふむふむ紀行


アジアなんて物騒で洒落てないとおもっていたために、これまで全く興味がなかった作者が、知り合いの1人が旦那の仕事の都合でベトナムへ転勤になったことをきっかけに、全員が定期的に集まれる場所として選んだのが香港という、その選び方からして、人生舐めているでしょう?というような、特にバブルの時代の遊び方をしていたひとたちの内容である。

本を読んだところ、筆者はこれまでヨーロッパばかりに注目していて、海外に行く=ヨーロッパに行くという典型的な日本人を演じていたようだ。でも、なぜかブランド物を買い漁ると言う事はこれまでしなかったようで、香港に行くと決まったときには、他のよく居るお姉ちゃんたちと同じように、エルメスだグッチだのブランド物を買い漁ることに命を掛けることを思いつく。一人の女性がどたばたするのではなく、その人の仲間全員がはちゃめちゃなキャラクターを持っていて、日本に居ると大人しいのに、海外に行くとなにかのスイッチが入ってしまい、これまで見たことがないような一面を見せて全員を困惑させるというひともいるから、海外旅行は面白い。

登場人物が同じ年代の同じ性別の人たちというわけではなく、老若男女が入り交じって、そのグループがいろいろなことをしでかすから面白い。だいたい団体旅行に行くと、かならずその中で1人、グズなやつが出てくるもので、やっぱりこのグループの中でも出発時から「遅れた!」と騒ぎ、他人に迷惑を掛けるひとが出てくる。そして、恐ろしいことに、香港でいちばん有名なペニンシュラホテルで、ハイティーを全員に奢らせられるという罰ゲームを与えられるというのは、自分たちのグループを見ているようで面白かった。

話としては、香港/澳門編・ソウル編・大阪編の3種類の話題にわたるのだが、香港/澳門編と大阪編が面白い。ソウル編は焼肉のことばっかりしか書いていないので、無視。まぁ、もともと歴史や文化のことを紹介するような本ではないので、それだけで読むのに耐えられないものなのだが、香港/澳門と大阪編は、そこを訪れる旅行者が土地の雰囲気に飲み込まれて、最終的には馴染んでしまうというのを上手く演出しているなと思った。特に大阪編は、冒頭の新幹線で大阪へ移動する際の状況から、「いかにも大阪」という状況が文字を通して想像できるくらい明快な雰囲気が読み取れる。新幹線でハゲオヤジと若い姉ちゃんが隣同士で座って、いちゃついていたなんていうのは、ドラマに出てくるような典型的な不倫カップルか、単なる商売女に手を出した金を持っているおっさんという組み合わせであるのは言うまでもない。そういう典型的な状況を体験できるのが大阪なんだと思う。ディープな大阪の部分は全く出てこないのだが、大阪に行ったことがある人、大阪に住んでいる人にとっては「あぁ、そういうのはあるある」と納得行くものばかりだろうと思う。

文章に勢いがあるので、270ページあまりの本も一気に短時間で読み終えることができた。実際に台湾旅行の際に持っていったのだが、高雄から台中へ移動する電車の中だけで読み終えてしまったのである。決して読むのが早いほうではないのだが、夢中になって文章に目が行ってしまった。おもわず台中で降りるのを忘れるところだった。

亜細亜ふむふむ紀行
群 ようこ 著
出版社 : 新潮文庫
発売日 : 1994/08
ページ数 : 279ページ

紅楼劇場(台北)

西門町のイメージが変わってしまったのは、たぶん紅楼劇場のあたりがめちゃくちゃ変わったからだろう。それまで紅楼劇場のあたりは、西門町の中でも、ボーっとしているような場所かとおもっていた。あの目立つレンガ造りの八角形の建物があるだけのつまらない広場だとおもっていたのだが、そこが最近変わったのは、一種のゲイタウンに変貌したからだろう。
誰が何のために作ったのかわからないが、台湾には多く存在するゲイが新宿二丁目に遊びに行き、クラブだけではなく、もっと広い範囲で集合的な店を作ってみると流行るだろうと読んだのかわからないが、台湾でゲイが集まることができる連続した店の集合体がこの紅楼劇場近辺だといえよう。
新宿二丁目のように、雑居ビルにゲイバーが密集して参入しているのとは違い、ちょっとオシャレなオープンカフェ風にしているところが、趣向が違う。よく見ると、店員が全員ゲイなのだが、客層は全員ゲイというわけではなく、ストレートのひともやってくるし、家族連れの親子も来たりすることができるカフェ+バーになっているところが良い。新宿二丁目の場合は、出会いの場と、同じ境遇の人たちが回りを気にせずゲイ的な会話をしてもいいような空間を町全体が作っているという感じだが、ここは別にゲイたちが他のゲイを求めるために来るというのではない。他のゲイを探すならFunkyやLuxyのようなクラブへ行くことのほうが早いだろう。
前から気掛かりな場所だとは思っていたが、実際に来てみてわかったことは、「中途半端だな」ということだろうか。よっぽどLuxyで、汗臭い筋肉男が上半身裸で踊り狂っている景色のほうがよっぽどゲイの世界を堪能できるというものだ。

金園排骨(台北)

西門町というと、若者の町であり、最先端で流行っているものがここにはあるというイメージしかもっていなかったが、侮るなかれ。西門町は新旧の文化がうまく調和している謎の町なのである。西門町のメイン歩行者天国から、ちょっと離れてみると結構怪しげな建物がたくさんある。感覚としてはアキバの裏通りという感じだ。でも、雑居ビルで商売されている内容は、アキバのようなPCやアニオタ御用達のようなものを売っているわけではない。どこで仕入れてきたのか分からないような雑貨や服が、鰻の寝床のような狭い店としてたくさん存在するのである。冷やかし半分にいろいろなビルに入ってみるのもいいだろう。

そんな中に萬年商業大楼というビルがあるのだが、ここには地下に生意気にも「地下美食街」なるものが存在する。どんな美味いものがあるのかとおもうのだが、天井が低いし、どう考えてもうまそうに見えない店がたくさん並んでいる。だが、このビルの歴史とともに歩んできた歴史的な店が存在する。それが「金園排骨」である。

何が美味いって、安い値段なのにボリューム満点だし、なんと言っても美味い!美味い、美味い、うまいー!特に排骨が美味いのだ。看板メニュにもなっているくらいだから、看板に偽り無しだ。

この店を紹介してくれたのは、台湾でモデルなどのメイキャップをしている友人だ。メイクの仕事をするついでにスタイリストの仕事もしているので、こういう西門町で怪しげな掘り出し物を買いに、よく来るのだそうだ。やっぱり持つべきものは地元の友達だなーとおもう。こういう怪しい店はガイドなんかにはあまり紹介されないからだ。でも、最近は台北も注目されてしまったので、結構いろいろなガイドも出てきたから、その中には載っているのかもしれない。

さて、ここでの食事というのは、もうほとんど学食のノリと同じである。看板メニュの排骨は当然頼んだのだが・・・というか、勝手に友達がこちらのリクエストを聞かずにあれこれ頼んだために出てきたものが以下のとおりである。
・咖哩排骨飯・燙青菜・炸豆腐・蝦捲
はっきり言って食いすぎである。1日2回しか食べないからという意味不明な理屈を前から聞かされていたが、1回の食べる量が多かったら、そりゃぁあんた、太るわ。だいたい、夕方なのに、この期に及んでカレーライスを頼んでしまうなんて言うのは、もうほとんど部活帰りの高校生と同じである。さすがに満腹になってしまった。ちなみに、カレーライスだけに見えているのは、「咖哩排骨飯」の一部であり、排骨とカレーライスが別々に持ってこられるので、とても同じ料理とは思えない。

中途半端な時間に行ったわりには、常に客が着席していたので、この店は地元民にもとても人気があるところなんだなというのが良く分かった。それに、ビルの地下だといっても、全く不潔感がなく、むしろ士林夜市で食べているより清潔なんじゃないかというくらいのものだ。ただ、知り合いがいなかったら、この店には絶対入らなかったと思う。金園排骨
住所:台北市西寧南路70号B1-11(萬年商業大樓)
電話番号:02-2381-9707

城隍廟(新竹)

新竹の中央市場は城隍廟を中心に囲むようにして形成されている。しかしながら、その中心の廟に行くには、迷路のような市場を通り抜けなければならないのだが、全く矢印とか方向指示のようなものがないために、どこにいったら廟にたどり着けるのだろうかということが分からない。それでも、市場を通っていくと、なんとなく自分が中心地の方向に向かっているということくらいは直感でわかるから不思議なものだ。こういう廟は地元の人しか来ないようなもので、部外者にお披露目するために存在するわけではないためだから、「こちらが廟ですよー」なんていう看板はあるわけがない。過保護の育っている日本人的な考え方からすると、「不親切だ」と思うのだが、地元民からすれば、そんなのはみんな周知のことなので、あえて看板を出す必要はないのである。

ここで祀られているのは名前のとおりに「城隍爺」と呼ばれる神様で、日本で言うところの閻魔様である。ところがこの新竹にある城隍爺は台湾の中では一番偉い城隍爺なのだそうな。歴史的にも1748年に乾隆帝の命で作られているというから相当古い。閻魔様なので、死んでも地獄に行かないようにおいのりするというのが、ここに来ている信者たちの基本的な考え。

ただ、冗談で作ったんじゃないのか?と思われるような神様の像がたくさん並んでいる。あっかんべーっと舌を出している神様や、村山元首相のように眉毛がぼーんと出ている神様やら、高校の文化祭にでも出てきそうなへんてこりんな顔をしている神様なんかもいる。だけど、そんな変な神様を横に従えて、真ん中に陣座しているのが城隍爺なのだ。顔を見ると穏やかな顔をした女性的な神様にみえるのだが、日本の閻魔様のイメージを持っていると、「違う神様?」と勘違いしてしまう。廟がちょうど市場の真ん中に存在するというのは記載したが、そのために廟で焚かれている線香の煙が外に漏れないため、年がら年中、廟の中は線香臭い。この線香臭さが、下界とは一線を画している雰囲気を醸し出しているのではないだろうか。

中央市場(新竹)

別に記載したいが新竹にも名物の廟が存在する。城隍廟なのだが、この廟については別途記載したいと思う。

台湾では廟や寺があれば、必ず人が集まる。人が集まれば、その人から金を巻き上げる(?)ために店が建つ。となれば、必然的に屋台村のようなものができるわけだ。新竹のこの廟の周りも当然ながら巨大な屋台村が形成されていた。それも巨大。もう迷路状態である。
感じとしては御徒町のガード下というより、大阪の鶴橋コリアンタウンと言ったほうが感じが伝わると思う。鶴橋のコリアンタウンも、服飾と食べ物が整頓されずに玩具箱をひっくり返したように無造作に並んでいるのだが、この屋台村もまさしく同じだった。だいたい、この市場の入口というのが正式にはどこにあるのかが全く分からないのである。とにかく中に入ればなんとかなるだろうと思っていたが、なんとかなるどころか、余計迷うだけになってしまった。
さっきから屋台村と書いているのだが、正式には中央市場という。

中央市場は新竹の台所とでも行ったほうがいいくらい、なんでも食材には困らないほどのものが売られているし、それを使った屋台もたくさん存在する。特に、新竹といったら名物の米份だろうが、それも当然売られている。あとはすり身団子の貢丸湯を食べるのも良いだろう。

東門城(新竹)

新竹駅から中正路を右手にSOGOを見ながらてくてくと歩いていくと、大きな門が見えてくる。台湾のどこに行っても蒋介石のあだ名である「中正」がつく通りがあるのは、気になるのだが、まぁ、それはよしとしよう。

さて、その問題の門だが、現在の名前は「東門城」。正式名称は竹塹城迎曦門という。300年ほど前にまだこのあたりに平埔族のタオカス族が住んでいたときに、オランダ人が作った地図では、新竹のあたりを「竹塹」と呼ばれており、肥沃な草原が広がったところであったようだ。その豊かな土地に、福建省から徐々に漢族がやってきて開墾していったのが新竹の始まりである。中華系のどの街もそうなのだが、人間が住むとまずは城壁で囲まれた町が形成される。新竹の町もご多望に漏れず、城壁で囲まれた町であった。城壁の建築はそんなに古くなく、1827年からの2年間にわたる工事で作られた。最初は町に4つの城楼があったようなのだが、日本統治に伴ない東門を除いて撤去してしまった。日本の感覚では城壁は邪魔なだけである。1902年にはいま残っている東門から南門の間の壁が取り払われたのを皮切りに、城壁が徐々に撤去された。取り払われた壁は何に使われたかというのは、そこは医師資格のある後藤新平が考えたことだろうが、治安維持と衛生事情の改善が優先されるために、取り払われた石材は、兵営の造営と上下水道の整備に使用された。頭がいい。だが、門だけ残ったものを見ると、なんだか情けないような気がするが、なぜこの門だけ残したのかが、当時の台湾総督府の考えがわからない。

そういえば、残った東門の南北に緑地帯が存在する。現在は「親水公園」と呼ばれているものだが、ここに実は城壁があったのである。だから、まっすぐに伸びた緑地帯の公園が広がって見えるのはそのためである。

新竹車站(新竹)


何度も通ったことはあるのに降りた事がない大きな街の一つに新竹がある。台湾のシリコンバレーにも成長したこの町には、実は結構客家の人たちが住んでいる台湾の代表的な町なのである。ここと桃園には客家の人が多く住んでいる場所として有名だ。

最初は客家の文化を知りたいと思ったので、新竹に行こうと思ったのだが、結果的には新竹を触りだけしか知らないで帰ってしまった。また台湾に行く場合には、また新竹にいって今度こそ客家のことを勉強したいと思う。
さて、新竹についてまず一番最初に驚いたのは、その駅舎だろう。新竹駅はホームにいただけではその素晴らしさは全然分からない。他の台湾の駅と同じように、何の変哲もない駅に見える。新竹駅の素晴らしさを見るためには、駅舎を出て、目の前の噴水がある公園から眺めることが一番だ。

駅として開業したのは1893年なのだが、いまの駅舎になったのは日本統治後の1913年のこと。これは基隆駅や台中駅と同じように台湾を代表とする駅舎建築として数えられ、史跡指定にもなっている。建物自体はそんなに大きいわけじゃない。だけど、その駅舎は堂々とした風格がある建物に見えるから不思議だ。建物としてはドイツ風のネオバロック形式の建物で、直線で構成された屋根のラインが印象的だ。なんとなく優美な中にもいかつい表情を持ち合わせているように見えるのが不思議である。この建物を設計したのは、建築をやっている人にとっては有名な松崎萬長である。彼はなんと13歳で岩倉使節団に加わり、ドイツのベルリン工科大学で建築を学んだ人である。日本で初めてドイツ建築を紹介したひとでもあり、日本建築学会を創立したメンバーのひとりでもある。台湾との関係は、1907年に台湾総督府鉄道局の技師として招かれ、駅舎や駅ビルの建築を担当したことが発端だ。

こういう歴史的な建物が国民党の台湾進出でも破壊されずに残っているというところに、台湾の国民の歴史に対する大切さを感じることができるといえよう。また、言い換えれば、100年経ってもまだ利用できるほど立派な建物として設計し作り上げた日本人の建築の高さを誇らしく思う。

老爺商務會館(台北)

今回の台北滞在では泊まったことがない場所に泊まって見ようと思った。あとから考えると、台北に3泊するのだから、3泊とも違うホテルに泊まってみれば、いろいろな違いがわかってよかったと思うのだが、予約当日は全然頭が回っていなくて、結果として3泊とも同じところに泊まることにした。

選んだのは老爺商務會館で、MRT中山駅のすぐ傍にあるところで、以前から存在は知っていたのだが、どこにそんなホテルがあるのかと気になっていたところだ。本来なら老爺系列の別のホテルである老爺飯店のほうが日航系列でもあるし、泊まったこともあるしよくわかっているのだが、その系列とは言え、ビジネスホテルの老爺ホテルがどういうものか想像できなかったので、試してみたかったのである。

結果から言うと、二度泊まりたいかと言われたら、「もう、結構」である。

理由はいくつかある。まずは、ホテルが建物全体というのではなく、雑居ビルのようなビルの8階から11階のフロアに存在するので、その入口がなんだか貧乏くさい。友達の家にいくという感覚でいけるという意味ではいいかもしれないが、ビルに警備員が立っているということ自体で、なんだか嫌だ。あと部屋数が少ないために、早めにホテルについても、そのままチェックインができず、荷物を預けて貰っても、かなり適当な場所に放置プレー状態になっていたからである。

実際に部屋はどうかというと、シングル部屋に泊まったのであるが、本当に日本のビジネスホテルと同じような感じで、全く落ち着かない。でも、ワシントンホテルよりはマシだと思う。せっかく台湾にまで来たのに、ここでビジネスホテルに泊まってもとは思った。部屋としては特に不必要なものは存在せず、必要なものはすべて揃っているという点では申し分ない。ただ、贅沢を言うと味気がないのだ。唯一納得できないのは、水周りが弱いこと。11階のフロアに泊まったこともあるので、水の勢いがない。めい一杯蛇口をひねっても、勢いのないシャワーが出てくるので、ガッカリである。朝食は8階のロビー隣で摂る事は可能だ。ただ、これがどのホテル利用感想のサイトをみてもわかるように、本当に申し訳ない程度のご飯が出てくる程度である。朝からがっつりいただこうという人には、全然満足できない。まさしく、ビジネスホテルなのだ。朝は食べるのが苦手というひとであれば、パンとコーヒー程度で十分なのだろうから、それなら特に文句もないだろう。個人的にはもっと欲しかった。でも、まだバイキング形式なので、食いたければ種類は少ないが、がっつり量を摂ればいいのだと思う。

値段が1泊2400元だったので、まぁ、安いほうだし、値段から考えればこんなもんで十分だろうとは思う。せっかくの円高だったんだから、もう少しランクの上のホテルに泊まってもよかったと後悔した。

もう一度言おう、もうここには泊まらない。でも、中山駅から歩いて1分は非常に便利である。

老爺商務會館
http://www.royal-inn-taipei.com.tw/
台北市南京西路1号(8~11樓)
Phone : 02-2531-6171
Fax : 02-2531-6179
Email : reservation@royal-inn-taipei.com.tw

寛心園(台北)

忠孝敦化駅近くには前にも使った事がある神旺飯店があるのだが、そこから横道にそれたところには、実は隠れた名店のレストランが結構たくさんある。でも、ほとんどのガイドには紹介されていないで、台北の洒落たひとたちにはほとんど御用達のように使われている店が結構たくさんある。芸能人もこの忠孝敦化周辺には出没するようなので、台湾芸能人をお目当てのひとは是非このあたりをウロウロしているといいかもしれない。

そんな忠孝敦化駅周辺の裏道に入ったところに、前の茶芸館で世話になった雷さんの紹介で行った店が、ベジタリアンの店である「」だ。あとでガイドをみたら、地図には載っているが紹介のことは一切書かれていないので、いままで近くまで来ていたのになぜ知らなかったのだろうと思う。場所から考えると、よく遊びに行っている誠品書店のちょうど真裏に当たる。それだけ傍に何度も出かけているのに気付かないとは、よっぽど自分の行動範囲がいつもワンパターンなんだなとつくづく反省した。

ここではすべてが野菜でつくられているので、肉好きのひとにとっては、少し物足らないとおもうのかもしれない。しかし、そんなことなく、しっかりとした野菜ばかりなので、腹は満腹になる。しかし、野菜だけだとはいえ、値段は結構高い。今回は暑いが鍋にしたのだが、1人分300元からだ。

今回頼んだのは鍋料理として、牛乳ベースの鍋である「牛奶菜鍋」と、薬膳料理の定番として君臨する「十全大補鍋」を選んだ。牛奶菜鍋は牛乳が苦手な人は絶対無理。だから、個人的には選択の1つには絶対無い。雷さんが選んだのでどんなのかなーというのは気になったが、牛乳と聞いて「選ばなくてよかった」と思った。もう1つのほうの鍋は、これは美味い。マジで美味い。何が入っているのかはもう忘れてしまった。普通の鍋料理としても全然いけるんじゃないかなとおもった。なお、これらの鍋にプラス150元をつけると、古代米とサラダとスープと最後にデザートが付く。寛心園
http://www.easyhouse.tw/html/meal_01.asp
台北市仁愛路四段345巷4弄51號
Phone : (02)2721-8326
Open : 11:30 Am~09:30Pm

紫藤廬(台北)

台湾師範大学の傍に、とても雰囲気の良い茶芸館が存在する。歴史的にも古蹟に指定されている建物としても台北の中では名高いのが紫藤廬というところだ。

この店は、初めてきたところだ・・・っと言いたかったのだが、実は3年くらい前に来たことがある茶芸館だった。この日、台北の友達と会って「紫藤廬」に行こうと言われたときに、最初は知らなかったので、「へぇ、初めてのところだー」と思ってわくわくしていた。場所もよくわからないので、タクシーで移動したのだが、到着してみて、実際に来たことがある場所だとわかった。その3年前のときも、いまはアムステルダムに住んでいる台湾人に連れてこられたのだが、そのときは古亭駅から歩いてここまできて、店の名前もわからず、すたすた連れていかれたところがここ。当時の自分は、どういうところかの説明もなしにどこに連れて行くんだろうと、古亭駅からは少し距離があるので、それを気にしながら歩いていった。連れて行ってくれたところが感じがよかったのだが、当の本人は「疲れたから昼寝する」といって、店の中で寝転がったので、その態度をみたときにも「なんというヤツなんだ」と呆れてしまった。そして、また台北のひとが連れてきてくれたのがこの店である。それだけこの店は台北の中でも一目置かれているところなんだろう。自分がお茶好きであることは、自分を知っている台湾人の多くは知っている事実。満足して貰おうと思って連れてきたところがここなので、その選択は嬉しい。台中の無為草堂と同じように、壁の向こう側は、静かな佇まいを演出した建物と、時間を忘れてしまいそうな内装の店が存在する。ほとんどが畳部屋になっており、この店はもともと日本家屋をそのまま利用しているのだということがよくわかるものだ。ここでは、のんびりと友達の雷さんと一緒に時間を忘れてお茶とおしゃべりを楽しんだ。久しぶりにあった雷さんだったが、全然容姿が変わらず、一体どんな薬を使って若作りをしているんだ?と疑問に思ってしまう。本人曰く「ベジタリアンだから」なんていっているが、日頃の努力のたわものなんだろう。それに日本語も達者なので、こちらも日本語だけ十分会話が出来る。ここで注文したのは普段は飲まない東方美人と阿里山珠露茶。なんでこの期に及んで東方美人なんか選んだのかいまだにわからないのだが、緑茶系ばかりではなく、たまには焙煎された紅茶系統のほうも楽しんでみたかったからということもあるのかもしれない。でも、選んだときには、なにも考えずに、えいやっと選んだのは言うまでもない。あとは、「台湾人だから得意でしょ?」という面子を擽るようなことを雷さんに言って、お茶を作ることを全部やらせてしまった。さすが外省系台湾人。面子のことを持ち出すと「いやだ」とか「できない」は言わない。

紫藤廬
URL : http://www.wistariahouse.com/
地址:台北市新生南路三段16巷1號 
電話:02-23637375;02-23639459 
服務時間:10:00-23:00